幸いにも、わたしは、大谷社長がタカラ物流システム株式会社の前身のタカラ貨物にいらっしゃった時から存じ上げています。
いらっしゃった当時、タカラ貨物という会社は、いかにも大手企業の子会社という感じで、全てにおいて余裕を感じさせるような会社でした。
大谷社長がおいでになられてから、みるみる全く別の会社に変わってゆきました。
関東にもあった赤字物流兄弟会社を吸収。倍増黒字化。
親会社の物流取引を全て統合し売上倍増。
親会社の負担になってた厚生事業などの引き受け黒字化。
トヨタ式改善活動の導入。・・・後に親会社でも導入。
西日本に点在していた委託物流拠点を自社拠点に統合。
この本の主題である長崎運送の買収により、親会社の売上比率を半分に。
これをたった十年で、それも九期連続黒字で実現されました。
その間の社長の忙しさたるや尋常ではありませんでした。特に長崎運送を買収されてからは、長崎を中心としながら、一週間おきくらいに全国を飛び回っておられました。おまけに休みはほとんどゴルフ。社内のソフトボール大会は四番サード。定年過ぎた年齢でですよ!
これじゃ四十代の役員さんやわたしなんかは口が裂けても「疲れた。。。(;_;)」なんて言えない。(>_<;)…..初期の大改革時は、現場の管理者も社員さんも、出入りの我々もそりゃ大変だった。みんながそれを乗り越えられたのは上の写真のあの笑顔で、「おお!ご苦労!」なんて言われると苦労なんか吹っ飛ぶんですよ。・・・・ほんとに。・・・・・怒られるときは、身も蓋もないくらいコテンパンで、穴があったら入りたいって、心底ほんとに思うくらいですけどね。
こう書くとそれ行けドンドン!拡大一本槍の人かと思われると思いますが、そうではない。タイヤの使用法から燃費の問題、昼休みの運用方法など、現場に落ちていても誰も気づかないようなことを丹念に拾い上げ、誰もが驚くほどの成果をあげられる。まるで手品を見ているようでした。これが書名にもある『貧乏人の発想』です。
折に触れて、様々なご指導を頂戴し、わたしは親父から教わったことより、遙かに多くのことを大谷社長から教わりました。
楽しい本なので、あちこちから引きたいんですが、解りやすく楽しいエピソードを少しだけ。
現場に黄金が落ちている
相撲の世界では「土俵にカネが埋まっている」というが、会社では現場に埋まっている。ちょっとしたヒントがきっかけでその大金が掘りだせることもある。まさに現場は黄金の山だ。
タカラ物流システムで原価見直しに取り組んだときのことだ。タイヤメーカーの営業担当者を呼び、タイヤ代をもう少し安くできないかと交渉した。
当社で使用する大型トラックには一二本のタイヤがついている。タイヤ一本の価格は三万円から三万一五〇〇円。値下げを頼んだところ、一本あたり一〇〇〇円前後がやっとだった。それでもあきらめずにメーカー担当者と交渉をしていたら、思いがけないことを言われた。
「大谷社長、購入価格を下げることも大切でしょうが、タイヤを長持ちさせる方法もひとつ考えてみてください」
「タイヤを長持ちさせる……どういうことや?」
「たとえば、買い替えのタイミングです。運送会社さんではタイヤの取り替え時期がまちまちということがよくあります。まだ使えるタイヤなのに廃棄してしまうのはもったいないですよ。それから、空気圧を適正に保つ、ローテーションをこまめにやるという基本の徹底も大切です。これだけでもタイヤの寿命が意外なほど延びますよ」
5トンもの荷物を載せて走るトラックは、タイヤの空気圧が少しでも下がれば磨耗のスピードも速くなる。また、タイヤの位置によって内側と外側の磨。減り方がずいぶんと違う。乗用車でも空気圧のチェックやタイヤローテーションはやるが、大型トラックはその効果が比べものにならないほど大きいというのだ。
「はう、そんなことでタイヤは長持ちするんか。ええこと問いたわ。ちょっと検討してみる」
さっそく整備課長を呼んで、タイヤ交換について詳しく尋ねてみた。
「トラックのタイヤはどういうときに買い換えてる?」
「乗務負が交換してくれと言ってきたときですね」
「つまり、乗質の判断に任せているわけだ。早く交換するのもいれば、ギリギリまで乗るのもいるやろ。磨。減ったタイヤで無理して運転すれば安全対策にもかかわる。どれくらいがいいと思う?」
整備課長はしばらく考えてから、言った。
「そうですねえ、溝の深さが三.四、、ミリとか三.三ミリとかになると限界でしょうか」
「おいおい、三.四ミリと三.三ミリのどっちやねん?」
「じゃあ、三.四ミリで。安全面に問題はありませんから」
「わかった。そんなら、三.四ミリに決めた。今日からそれがうちの規定や。空気圧もしっかりチェックさせとけよ」
「はい、ではそうします」
「タイヤのローテーションはどうしてる?」
「それも乗務員に任せています」
「何でも乗務員任せやなぁ。タイヤメーカーの担当者は、二万キロごとにローテーションすると長持ちすると言ってたぞ」
「二万キロとはずいぶん早いですね。ローテーション代もかかりますから、ちょっと計算してみます」
タイヤのローテーション代は一本につき二五〇〇円ほどだと言う。一台のトラックなら一二本で一万八〇〇〇円になる。このコストがもったいないからと、こまめにローテーションすることを避けている運送会社もあるらしい。
タイヤメーカーの担当者が言うことは本当だろうかと、実際に当社のトラックで試してみることにした。
一台のトラックは年間にだいたい二〇万キロから一五万キロは走る。それだけ走れば、通常は溝が磨。減ってタイヤ交換の時期となる。言われたと晋に、空気圧を適正に保ち、二万キロごとにローテーションしてみた。すると、タイヤの溝が規定の三・四ミリになるまでに二年以上かかった。タイヤ寿命が二倍以上に延びたのである。
仮に三〇台の大型トラックで計算すると、従来は年間九〇〇万円近くをタイヤ代にかけていた。それが、タイヤ寿命が二倍に延びたことで、ローテーション代を差し引いても年間七〇〇万円近くのコストダウンになる。利益で七〇〇万円を稼ごうと思えば、たいへんな営業努力がいる。タイヤメーカーから聞いたちょっとしたヒントで、意外なほど改善効果があったことになる。
「すごいもんやなあ。二万キロごとのローテーションでこんなに経費が浮くんか」
報告にきた整備課長も二緒になって「すごいもんですねぇ」と感心していた。現場にカネが埋まっているとはこういうことだ。目のつけどころによっては、大した努力をすることなく、数百万、数千万円の経費削減ができるのだ。
メーカーもほしがる乗務員たちの実験データ
現場の意見を吸い上げるしくみづくりも重要だ。
タカラ物流システムでは四年ほど前から、乗務員たちが小集団活動に取り組んでいる。乗務員の班は、関西に六グループ、関東に三グループあって、それぞれ六、七人でひつの班になっている。その職場グループごとに年間テーマを決め、実地研究を進めながら毎月の成果を記録しているのだ。
一年間の成果は、毎年三月の「安全晶質環境大会」で全社員にむけて発表される。全九グループが発表し、最優秀賞、優秀賞を決める。いまは長崎運送の乗務員たちも参加し、テレビ会議を通じて二社の全社員たちが発表を聞くようになっている。
この発表は私も毎回、楽しみにしている。
タイヤローテーションの実験も、この小集団括動で大きな成果をあげた。あるグループの実験では、それまで一〇万キロから二五万キロで買い換えていたタイヤが、ローテーションと走り方によっては最大三四万キロまで寿命を延ばせると発表した。タイヤメーカーからそのデータを譲ってはしいと打診されたほどである。
〇九年三月の発表でも、たいへん興味深い研究成果が出た。エコ・タイヤによる燃費効果を実証してみせたのである。
ェコ・タイヤは燃費向上を特徴にしているが、メーカーは従来のタイヤに比べておよそ三・五パーセントの向上があると謳っている。ところが業界内では、磨耗が早くてコストアップになるという評価があって、導入を控えている物流会社もある。この評価は本当だろうかという話で現場は盛り上がったらしい。
ぁる乗務員のグループが、このエコ・タイヤを研究テーマに選んで実験してみた。
二台のトラックに、二万は従来のタイヤ、もう二万にエコ・タイヤを履かせて通常業務の運行で走らせた。数力月ごとに二台のタイヤを丸ごと交換する。何度かそれを繰り返すことで、走行技術の違いによる誤差を防ぐという考え方だった。
実験が終わってみると、エコ・タイヤは従来のタイヤより五.五パーセントの燃費向上が認められた。メーカー発表よりも二パーセントも高い。
大型トラックが三〇台あれば、年間でざっと一〇〇万リットル前後の燃料を消費する。
一リットルの燃料代が一〇〇円としても、五.五パーセントの向上で五五〇万円もの燃料代が浮くことになる。エコタイヤが少し型高だとしても、これはたいへんな改善額である。
このグループの研究報告を受けて、タカラ物流システムでは〇九年四月から全車でエコ・タイヤ導入を決めた。このデータもタイヤメーカーから譲ってほしいと打診を受けている。
現場の乗務員たちが研究し、安全対策やコストダウンに役立つデータを導きだした例はほかにもたくさんある。自分たちのアイデアが、目に見える成果に結びつくとわかってから、彼らもおもしろがって取り組むようになった。誰もがやる気に満ちているといった様子だ。
現場に埋まっている黄金のありかは、現場の社員たちが二苔よく知っている。経営者や管理者が注意深く目を向ければ、いくらでも掘りだせるものだ。
物流に携わる全ての人に読んでいただきたい宝物です。
この本を頂いたとき、「同業者なんかで派手なことをするとか”とやかく”言う人が出るのは承知の上、これは世話になった人全員に対する俺の遺言のつもりで書いた」とおっしゃってました。
わたしにとっては、日蓮上人の遺文、坂井三郎氏の著書と並ぶ、人生の書となりました。
同書の中には、大谷社長の珠玉の名言が沢山ありますので、しばらく、『大谷将夫語録』として引いてゆきたいと思います。