著者が言うように時間軸導入が全くの初出の内容かというと管理会計の分野ではすでに実績のある内容です。しかし、その管理会計も一般的に認識されている制度会計からは、かなり逸脱した内容ですから、制度会計いっぺん道、この道一筋で来た経理マンには、目から鱗の内容かもしれません。
トヨタ式 力イゼンの会計学 もくじ
はじめに
第1章 ほんとうの「儲け」とは何か?
●私たちの『儲けの評価』は正しいのか
●「馬」と「豚」、どちらが儲かるのか 25
●『時間』の概念を入れて、評価する 34
●『時間』と『資金』の概念を入れて、評価する
●6つの評価法のまとめ 42
第2章 「お金」と「時間」はこうして考える
●「時間の経過」=「儲け」の能力を「ムダに寝かせている」
●「もの」の存在自体にもお金がかかっている 48
●「1カ月後の120円」と「10年後の200円」 53
●「利益率」と「収益性」の違いを考える 57
●「利益率」だけで「儲け」を考えていませんか 60
●「スーパー」と「コンビニ」の販売戦略の大きな違い
第3章 1万円の在庫を1日寝かせるといくら損をするのか
●在庫は常に「数量」と「金額」だけで管理されている 68
●「1万円の在庫が、1日でいくら稼ぐのか?」から考える 70
●「たな卸資産が稼ぐ」という発想 74
第4章 「本流トヨタ方式」から進化した『Jコスト論』
●『Jコスト論』を生み出した「本流トヨタ方式」とは何か? 80
●「本流トヨタ方式」で考える「自働化」と「ジャスト・イン・タイム」
●「在庫低減」の真の効果 87
●「リードタイム短縮」の真の方法 88
●「本流トヨタ方式」による現場改善の実態 91
●なぜ、「トヨタ生産方式」の導入がうまくいかないのか
●やみくもな「原価低減」がもたらすこと 96
●Q(品質)を確保し、D(納期)を追求すれば、C(収益)は後からついてくる 98
●ジャスト・イン・タイム改善をきちんと評価する会計理論がほしい 10
●「利回り」をベースに評価法を考える 04
●壁を崩すための「新理論=Jコスト論」ができた 川
●各単位系を明確化する 17
第5章 中ロット生産が儲かる「ほんとうの理由」
●「大ロットのほうが生産コストは安い」と誰もが思っている
●小ロットと大ロット、2つのパターンを比較してみる 22
●「時間」の概念を加味して考える 27
●ポイントは「利回り」=「収益性」にある 30
●最大在庫金額を検証する 34
●段取り替え費用そのものを減らす、という発想 128
●見かけの「利益」ではなく、ほんとうの「儲け」=「収益性」を
第6章 並行生産と集中生産はどちらが簿なのか?
●なぜ「いつでも、どこでも」道路工事をしているのか7 44
●やり方次第でJコストが5倍も違う 棚
●「利益率」は同じでも、「収益性」は3倍近い開きがある 55
●ひとつひとつ、確実に完成させよ! 158
第7章 「高価な航空便」と「安価な船便」は、どちらが得なのか?
●スピードには「価値」がある
●「安さ至上主義」による弊害
●時間をかけてでも、輸送費は減らすべき?
●「中身」を吟味して、「速さ」は決める
●物流によって、どれくらい収益性が落ちるのかを判断基準にする
●リードタイム比の影響
●倉庫の中に寝かせておいても、劣化する
●運賃を上げれば、収益性は上がる
●物流コストを下げるための企業の工夫
第8章 中国工場で生産するのは、本当に得なのか?
●「利益率」では中国での生産が儲かる 9。
●時間概念を加えると、中国生産が「儲かる」とはいえない
●国内か海外か、「明確な基準」があれば迷うことはない
●「ものを動かすと発生するリスク」を忘れてはいけません
●ムダに「ものを動かして」いませんか7 207
第9章 なぜ、在庫は増えるのか?部分最適をやめて、全体最適へ
●なぜ、在庫は増えるのか7 212
●部門ごとの「ムダとり」が、悪さの大きな原因 214
●従来の会計理論は、在庫を抱える=「損失」ではない
●「不足してはいけない」という意識が強い 22
●不要になったら、「減らす勇気」を持つ229
●かんばん方式が有効なワケ 233
●なぜ、「収益性」で考えることが重要なのか7235
第10章 『Jコスト論』は、こうして導入・実践する
●『Jコスト論』を、あなたの職場に導入する方法 238
●銘柄別に『Jコスト図』を描く 241
●「投入資金量」という考え方 24〝
●銘柄別に「収益性評価」を行なう 用
●企業全体の収益力を総合評価する「収益性分析図」 25。
●「収益性劣化図」の活用 257
●「Jコスト論的発想」により成功しているビジネスモデル
●全体最適≠部分最適の総和 27。
・「Jコスト論的部分最適」が会社全体を変える 274
●明日の成功のために 27
おわりに
第1章 ほんとうの「儲け」とは何か?
●「『原価改善せよ!』というけれど、現場は何をどう改善したらよいのか」
●「在庫低減を提案したら『いくら儲かるのか』と聞かれ、説明に困った」
●「生産革新の名のもと、工場が見違えるほど改善を進めた。しかし掛けた費用に見合うコストダウンが見えてこない」
●「さまざまな改善をして、個々の数字としては儲かっているのに、なぜか資金繰りはきついままだし、全体の利益が上がらない」等々。
日夜改善に邁進している、さまざまの立場の方たちからこのような「トヨタ生産方式改善の会計的評価」に関する悩みをお聞きしています。
私自身も、トヨタ自動車の「製造部門」にいたときに、諸先輩からは、『生産現場に原価低減(C)を押しっけるのは滅びの道である。トヨタ生産方式の現場改善というのは、自働化で品質確保(Q)をした上で、リードタイム短縮(D)に徹することにある。そうすれば収益性(C)は後からついてくる』と教えられ、そのように取り組み、成果を上げてきました。
私の目では大きな成果に見える改善を、会計に明るい人たちは理解できず、「リードタイムを短縮すれば、なぜ儲かるのか」と怪訝な顔で開いてきます。それに答える理論体系はありません。冒頭にある悩みは、かっての私自身の悩みでもありました。
悩み抜いた末、私が到達したのが、本書のテーマ『Jコスト論』なのです。
本書を読み終えると、『Jコスト論』をご理解いただけると思いますが、まずは、会計学の抱えている問題点を説明します。
私たちの『儲けの評価』は正しいのか
「評価してみたが、結果が思わしくない」とき、あなたはどう考えますか。
①「評価方法が適切でない」
②「改善そのものが適切でない」
実は、①と②が入り交じっているのです。
改善を進めるためにどうすればよいかはよく考えますが、それを評価する肝心の物差しについては、最初から正しいと思い込んで、誰も疑っていないのです。
まず『Jコスト論』理解の前準備として、当然知っているつもりの『儲けの評価』を皆さんとともに再吟味してみましょう。
今からお話する内容は、東京大学の『ものづくり寄席』において掛けた外題をアレンジしたものです。「馬と豚、どちらが商売になるのか」という事案を考えるとき、評価方法を変えただけで、『儲けの度合い』が劇的に逆転してしま、γという恐ろしいお話です。寄席のお話ですので、深刻にならずにお開きください。
「馬」と「豚」、どちらが儲かるのか
『とんま』という言葉があります。大辞林によれば「とんちき」と「のろま」を足して、余分な部分を端折ってできたという、ウソのような説明が載っています。
漢字では「頓馬」という難しい字を使っています。
ここでは「豚馬」と書くことにして、「豚」と「馬」、それぞれを育てて売った場合に、どちらが儲かるかを吟味していきたいと思います。全部で6つの評価方法を試しています。評価方法によって、結果が変わってくるという摩討不思議なことが起こります(注・ここで使っている数億はすべて架空のものです)。
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【設問】ある飼育業者が、「馬」を飼育すべきか「豚」を飼育すべきか悩んでいました。
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「馬」は子馬の仕入れ億が5万円、飼育代が月に3千円、2年間飼育して25万円で売れるとします。
「豚」は子豚の仕入れ値が1万円、飼育代が月に1千円、1年間飼育して4万円で売れるとします。
【解答】まず、各々に掛かった総コストを計算します。
「馬」の総コスト=5万円+3千円×24カ月=12.2万円
「豚」の総コスト=1万円+1千円×12カ月=2.2万円
ここから先は、6つの評価法を試します。それぞれをご説明します。

【評価法1】単純に租利で比較
単純に租利で比較するには、「租利=売値1線原価」で計算できますから、前述の数値を使えば、
「馬」の租利=25万円-12.2万円=12.8万円
「豚」の租利=4万円-12.2万円=1.8万円
《結論1》「馬」が有利となります。
評価法1では「馬」を飼育したほうが11万円も儲かることになります。しかし、その前にかかった金額、すなわち仕入れ値の違いがあります。これを無視しているので、この結論で意思決定するのは誤りだと誰でも思うでしょう。そこで次ページでは仕入れ値の違いを配慮した評価方法を考えてみましょう。

【評価法2】仕入れ値の違いを配慮
仕入れ値の違いを配慮して比較するには、「仕入れ値あたりの親利を比較」すればよいことになります。つまり、かけた金額に対して、どのくらいの割合の利益があったか、これを計算してみるわけです。
それぞれの仕入れ億租利率=粗利÷仕入れ値を計算しますと、
「馬」の仕入れ値粗利率=12.8万円÷5万円=256%
「豚」の仕入れ億租利率=1.8万円÷l万円=180%
《結論2》「馬」が有利となります。
「馬」の租利は仕入れ億の2・56倍です。「豚」より140%も有利となります。評価法2でも「馬」を飼育した方が、ずっと儲かります。「いくらの元手で、どれだけ儲けたか?」というのは、商売において非常に重要なポイントで、中小企業の社長、あるいは商店主たちは、「今日仕入れたものが、いくら稼ぐか」を常に気にしています。その稼ぎによって「明日はいくら仕入れるか」という身の丈に合った経営を頭に描いています。ところが、一般には、「売値に対して、どのくらいの租利があるか?」を重視する傾向にあります。ということで 「売上高利益率」を比較してみます。

【評価法3】売値の違いを配慮
売上高利益率で比較するため、それぞれの租利÷売値を計算しますと、
「馬」の売上高利益率1-12.8万円÷25万円=51%
「豚」の売上高利益率=1.8万円÷4万円=45%
《結論3》「馬」が有利となります。
評価法3では「馬」が売上高利益率では0・51と依然優位です。しかし、「豚」との差は1.1倍に近づいてきました。 実際には大多数の職場で、この「評価法3」で意思決定がされています。そのため、「たくさん売れば、仕入れ値段も安くなり、二重に儲けられる」「とにかく利益率の高い商品」を重点的に売れという方向に陥りやすいのです。
本当にこの計算のように、利益率が高い「馬」の飼育案を採用して大丈夫なのでしょうか?

実はここに、飼育期間という仕入れから売れるまでの期間の違いがあります。今までの評価法はこれを無視していたのです。「馬」の飼育は2年がかりの話で、「豚」の飼育は1年で済む話だったのです。「馬」1頭を飼育し終わるまでに、「豚」は2匹できるのです。この「時間」の違いという要素を入れて評価する必要があるはずです。次ページからは、いよいよ「時間」の概念が登場します。
『時間』の概念を入れて、評価する
【評価法4】飼育期間の違いを配慮(1)
ここではわかりやすいように、仕入れ価格を縦軸、飼育期間を横軸にして、お金を使っている状態を表す図をつくってみました。
次ページの図を見て下さい。図の中の「馬」の長方形の『面積』の中に、「豚」の長方形の『面積』が時間の方向2個、金額方向に5個、並べることができます。全部で10個ピッタリ並べることができるので、この図から「馬」1頭と「豚」10匹とを同格として、租利を比べるのが公平なやり方だと分かります。
「馬」…12.8万円×1回=12.8万円
「豚」…1.8万円×10回=18.0万円
《結論4》「豚」が、5.2万円有利となります。
今までとは反対になり、なんと「豚」 のほうが5.2万円も多くの粗利をたたき出しました。『面積』を勘案することで、全く異なった評価になります。今の例では、「馬」の『面積』に中に「豚」の『面積』がピッタリはまったから簡単に答えを出せましたが、「馬」と「豚」の『面積』がピッタリならない時にはどう考えたらよいのでしょうか。それは次ページでわかります。

【評価法5】飼育期間の違いを配慮(2)
評価法4では、『面積』を同じにして粗利を比較しましたが、これは〔租利÷『面積』〕を使って評価したことを意味しています。このように定義すれば
「馬」租利÷『面積』=12.8万円÷(5万円×24カ月)=0.11/月
「豚」租利÷『面積』=-1.8万円÷(1万円×12カ月)=0.15/月
《結論5》 「馬」0.11/月=1.32/年
「豚」0.15/月=1.80/年 →「豚」のほうが有利
評価法5でも評価法4と同じく「豚」のほうが有利となりました。この事例から〔租利÷『面積』〕を使えば、『面積』の形を問わずに比較できるということもわかりました。これを「馬」を飼育する代わりに、5万円で投資ファンドを買い、2年後に25万円で売れたとして、その利回りを計算しますと、
利回り=租利÷(投資額×期間)
=(25万円15万円)÷(5万円×24カ月)
=租利÷『面積』となって、評価法5と同じ計算式になります。
この場合、『面積』は投入資金量に相当し、今後いろいろな場面で出てきます。そこで、この『面積』のことを「Jコスト」と名づけます。『面積』=「金額」×「時間」=『Jコスト』。このように定義すれば、利回りとか営業上の儲けとかを問わず任意の形の『面積』も計算することができます。(Jコストの詳しい説明については第4章を参照)

『時間』と『資金』の概念を入れて、評価する
ところで評価法5の例は、定期預金タイプでしたが、実際は月々の飼育代がでていきます。毎月の飼育代は、租利を計算するときの原価としてのみ計算されていましたが、月々の支払いという形が評価されていません。これはどう考えたらよいのでしょうか。
月々一定額の飼育代を使って飼育している状態というのは、積み立て預金とよく似ています。「頭金」を子馬の代金、「月々の積立金」を飼育代、「満期までの積み立てた全額」が総原価、「利息」が租利と見なせば完全に一致します。それゆえ、「積立預金モデル」で計算すればよいことがわかります。
さて、このとき分母となる「金額」×「時間」から計算される『面積』はどうなるのでしょうか。
先ほどは一定額で維持する場合を考えていたので、『長方形』になりましたが、今度はその上に、月々投入した飼育代が累積していく三角形が載った形になります。「馬」でいえば、最初が子馬代だけの長方形、最後が総原価の台形になります。
このことを配慮して、「積立預金モデル」で計算してみましょう。
【評価法6】月々の飼育代も配慮
まず41ページの図を見てください。図では、台形の面積を直接計算しておりますが、ここではわかりやすくするために、三角形と長方形で分けて考えます。
「馬」の飼育代の『面積』
=(3千円×24カ月)×24カ月÷2=輿4万円・月
「豚」の飼育代の『面積』
=(1千円×12カ月)×12カ月÷2=7.2万円・月
次に、「仕入れ債」×「時間」からなる長方形の『面積』を求めます。
「馬」の長方形の『面積』=5万円×24カ月=120万円・月
「豚」の長方形の『面積』=1万円×12カ月=12万円・月
最後に、三角形と長方形を足した台形の『面積』あたりの『儲けの評価』は、
「馬」の『儲けの評価』=租利÷台形の『面積』=12.8万円÷(86.4+120)万円・月
=0.062/月
「豚」の『儲けの評価』=租利÷台形の『面積』=1.8万円÷(7.2+12)万円・月=0.094/月
《結論6》「豚」のほうが儲かる。しかも「馬」よりも約5割増しで儲けられる。

この評価法6こそが、時間軸を入れて評価する『Jコスト論』の考え方なのです。もう一度、最初からこの設問の答えとしての6つの評価法を見直してみましょう。
6つの評価法のまとめ
次ページの図に、今までやってきた6つの評価法を一覧表にまとめてあります。皆さんは今まで計算してきた6つの評価法を比べて、あらためて、その数字の開きの大きさに、ビックリされたことでしょう。
この図をよく見て下さい。会社で儲けを評価する場合、ほとんどの人たちは、3番目の「売上高利益率」を使っています。
次に多いのは、2番目の「原価利益率」です。
しかし、どちらも『利益率』なので時間の要素が入っていません。

一方、6番目の『Jコスト論』 は『収益性(利回り)』で評価しています。この章で、でてきた『面積』こそがすべての「投入資金量」を表すものなのです。
先に述べたように、これに「Jコスト」という名前をつけました。
次の章からは、この「Jコスト」という名称でお話を進めていきます。